〝食べやすい〞ではなく、虜になるラーメン

16歳からラーメン修業を始めた代田将悟氏が、独立して自分の店を構えたのは2014年1月、26歳のとき。選んだ立地は、「とらきち家」と同じ家系ラーメン店が軒を連ねる横浜市神奈川区の六角橋。ラーメン業界では「家系ラーメンの仁義なき戦い」などと書き立てられた。代田氏が激戦区で戦う術(すべ)とは? 若き店主に取材した。


ラーメン(650円)

とらきち家
所在地=神奈川県横浜市神奈川区西神奈川3-1-1
営業時間=火~金曜日:午前11 時~午後11時、土・日曜日:午前11 時~午後10時、月曜定休

ラーメン(650円)
1,000 円近いラーメンが珍しくない昨今、極めて良心的な価格。具は海苔3枚、ホウレンソウ、ネギ

野菜ラーメン(650円)

野菜ラーメン(650円)
モヤシ300g、キャベツ、ネギと野菜たっぷり。
トッピングの追加は野菜=30円、ホウレンソウ=50円、キャベツ=90円と、とにかく安い!


量もコストも惜しまない

豚と鶏のがらがたっぷり入ったスープを手間をかけてかき混ぜる代田氏

豚と鶏のがらがたっぷり入ったスープを手間をかけてかき混ぜる代田氏
 本紙の過去の掲載記事に目を通しながら、代田氏は「自分はこんなんじゃ、ないですから。特にこだわりがあるわけでもなし、感動的な物語があるわけでもない。成り行きと運だけで生きてきた人間ですから。あとは、いろいろ助けてくれる人がいたのがありがたかった」と言う。
高校をわずか1ヵ月で中退し、家系ラーメンの有名店に就職。16歳から9年間修業を積んだ。その店を辞めた半年後に自分の店をオープンさせているが、それも「周りに助けてくれる人がいたからで、自分から積極的に動いたというわけでもないですし……」とあくまでも控えめだ。
代田氏の話のトーンが変わったのが、スープ作りに話題が移ったとき。一般に、家系ラーメンのスープは一から作るのではなく、継ぎ足し、継ぎ足しで炊いていくのが基本。この〝継ぎ足し〞方次第で、スープの出来が違ってくる。
「前日のスープの残量に関係なく、うちのがらの注文量は同じ。材料をケチッてもうけようとは思いません。お客さんに対して正直なラーメンを出しています」
代田氏は「家系ラーメンのスープは、材料ありきだ」と言う。どれだけの量のがらを投入したかが、スープの出来栄えに直結する。そして、投入したがらは、頃合いを見計らって取り出す。このタイミングと取り出す量が、家系ラーメン職人の〝技術〞だ。「がらを抜き過ぎると軽くなるし、いつまでも炊いているとスープがドロドロになり過ぎます」とその加減次第で同じ家系ラーメンでも違いが出る。
魚介や野菜を使用せず、豚と鶏の動物性タンパク質だけでだしをとるスープには、独特のクセがある。「ひと口食べただけで全部残す人もいますから、ダメな人はダメですね。〝食べやすく〞はないし、〝食べやすい〞というのはほめ言葉でもない。でも、このクセのあるラーメンをおいしいと感じてくれるお客さんは、週に何回も来てくれるようになりますね」と一度ハマッたら、やみつきになるのが家系ラーメンの真骨頂だ。
代田氏が作るラーメンには、それがある。決して「運と成り行きと人の支え」だけで、ここまできたわけではない。家系ラーメンにかける情熱と信念こそが、ラーメン激戦区で戦い抜く最大の強みといえるだろう。


ラーメン激戦区への出店は偶然 出店はトントン拍子で進む

「とらきち家」の店名にちなんだ“トラ柄”の看板がユニーク

「とらきち家」の店名にちなんだ“トラ柄”の看板がユニーク
 「とらきち家」は2014年1月開業。東急東横線・東白楽駅から徒歩約5分、JR京浜東北線・東神奈川駅から徒歩約15分。立地は横浜でも有名なラーメン激戦区の六角橋界隈。2軒隣に家系ラーメン店の「六角家」、約2㎞先には「末廣家」、そのほか「くり山」などが出店している。
「たまたま通りかかったら『テナント募集』の貼り紙があって、借りることになったんです。2軒隣が『六角家』さんだから、オープン当時はケンカを売っているように言われたけど、そんな気はまったくない。『六角家』さんとは、結構仲がいいんですよ」と周りが思うほどライバル店を意識してはいない。
出店費用の約2000万円は全額借金。前がドラッグストアだったので、設備を一から施工する必要があり費用がかさんだ。店をオープンしたものの、客の入りがさっぱりで、半年間は「死にそうだった」と言う。水道光熱費を滞納し、材料の仕入れ先にも支払いができない状態が続いた。その苦境を脱することができたのが「うまいものを作るためには、材料費を惜しまない」という信念だった。
坪数17.5坪。席数15席。1日平均来客数130〜150人。平均客単価700円。


がらを足しては抜くを繰り返す手間をかけるからこそうまい

「とらきちライス」。ライスを注文して、手作りの「刻 みショウガ」と「ライス用ニンニク」をトッピングし、 マヨネーズをかけて完成。

「とらきちライス」。ライスを注文して、手作りの「刻 みショウガ」と「ライス用ニンニク」をトッピングし、 マヨネーズをかけて完成。半ライス70 円、並・大 盛り110 円で食べられるのは、かなりお得だ
 スープは、直径58㎝ の寸胴でゲンコツをはじめとする豚がら180g、鶏がら60gを強火で2〜3時間炊いたものが基本。がらは生のものを使用する。家系ラーメンのスープは、毎日一から作るのではなく、前日の残りにがらを加えて炊き、時間がたったがらは炊き過ぎる前に取り出す。新しいがらを加えては、古くなったがらを取り出すという作業を繰り返してスープを作る。
その間、鍋底にがらを焦げ付かせないためと、半分砕いてがらのうま味を出すために、手間をかけて混ぜることが欠かせない。スープを混ぜるために代田氏が使用しているのが、特注のチタン棒。「鉄製だと熱くなるし、重いんです。木製だとがらに負けて折れちゃうし…」との経験からチタン製を思いついた。
自家製薫製の豚もも肉を醤油に漬けてチャーシューを作り、漬け込んだ醤油がたれになる。「たれに塩を加えると〝塩辛く〞なる。ラーメンは塩辛いではなくて、醤油味の〝しょっぱさ〞じゃないとダメですね」

自分好みにカスタマイズできるのが家系ならでは

自分好みにカスタマイズできるのが家系ならでは
 カウンターの上には、手作りの刻みショウガ、おろしショウガ、ライス用ニンニク、おろしニンニク、マヨネーズ、コショウ、粗びき唐辛子などが並び、客が自分好みに味をカスタマイズできる。刻みショウガはゆでたショウガを調味料と乳酸菌に漬けたもの。ライス用ニンニクはゆでたニンニクを醤油に漬けて刻んだもの。すべて手作りで、無料だ。
「トッピングでもうけようとは思いませんから。自分好みのトッピングにしてもらい、何度来ても食べ飽きないラーメンがいいと思っています」と根強いファンを増やしている。


GSラーメンコショー

「とらきち家」の愛用食材

GSラーメンコショー
販売元=ジーエスフード
(大阪府東大阪市)
規格=(缶)90g、400g
ニンニク風味が絶妙
厳選されたブラックペパー、ホワイトペパー、ガーリック、オニオンを絶妙にブレンドしたラーメン専用のブレンドコショー。「ニンニクと玉ネギの風味がブレンドされたコショウなので、風味豊かなスパイシー感があり、ラーメンが一層おいしくなりますね」と代田氏。

OHotグリーン300

OHotグリーン300
販売元=富士食品工業
(神奈川県横浜市)
規格=300g
ラーメンの味を崩さない
生の唐辛子の風味を生かした製法で、乾燥唐辛子にはない香りとうま味を備えた辛さが特徴。「味にアクセントを付けながら1 杯を楽しんでいただきたいと思っていますが、これは辛さはあるのですが、ラーメンの味自体を崩すことがないのが気に入っています」


代田 将悟(しろた・しょうご)

代田 将悟(しろた・しょうご)
16歳から始めたラーメン修業
1988 年横浜市戸塚区生まれ。高1の5月に高校を中退し、仕事探しを始める。「もともと包丁を握るのが好きだったから、本当は調理師学校に行きたかったんです。でも、ちゃんとした調理師学校は高校を卒業していないと入学できなくて……。それで、家の近所にラーメン屋が多かったので」という理由で、家系ラーメンの有名店に就職。16 歳からラーメン修業を始め、店の寮で生活する。繁盛店だったので、1日ほぼ12時間労働。16歳の少年にはつらいはず。さらに先輩後輩の関係が厳しく、辞めていくスタッフが多かった。そんな状況の中、代田氏は9年間、修業を積み、2013年8月退職。修業時代からかわいがってもらっていた清水裕正氏が経営する「王道家」に移る。清水氏のサポートを得て、14年1月24日、横浜市神奈川区のラーメン激戦区の六角橋界隈(かいわい)に「とらきち家」をオープン。開業後、わずか1年で、TRY ラーメン大賞2014-2015年「TRY 新人賞とんこつ部門」で受賞する。

adminラーメントレンド〝食べやすい〞ではなく、虜になるラーメン 16歳からラーメン修業を始めた代田将悟氏が、独立して自分の店を構えたのは2014年1月、26歳のとき。選んだ立地は、「とらきち家」と同じ家系ラーメン店が軒を連ねる横浜市神奈川区の六角橋。ラーメン業界では「家系ラーメンの仁義なき戦い」などと書き立てられた。代田氏が激戦区で戦う術(すべ)とは? 若き店主に取材した。 とらきち家 所在地=神奈川県横浜市神奈川区西神奈川3-1-1 営業時間=火~金曜日:午前11 時~午後11時、土・日曜日:午前11 時~午後10時、月曜定休 ラーメン(650円) 1,000 円近いラーメンが珍しくない昨今、極めて良心的な価格。具は海苔3枚、ホウレンソウ、ネギ 野菜ラーメン(650円) モヤシ300g、キャベツ、ネギと野菜たっぷり。 トッピングの追加は野菜=30円、ホウレンソウ=50円、キャベツ=90円と、とにかく安い! 量もコストも惜しまない 豚と鶏のがらがたっぷり入ったスープを手間をかけてかき混ぜる代田氏  本紙の過去の掲載記事に目を通しながら、代田氏は「自分はこんなんじゃ、ないですから。特にこだわりがあるわけでもなし、感動的な物語があるわけでもない。成り行きと運だけで生きてきた人間ですから。あとは、いろいろ助けてくれる人がいたのがありがたかった」と言う。 高校をわずか1ヵ月で中退し、家系ラーメンの有名店に就職。16歳から9年間修業を積んだ。その店を辞めた半年後に自分の店をオープンさせているが、それも「周りに助けてくれる人がいたからで、自分から積極的に動いたというわけでもないですし……」とあくまでも控えめだ。 代田氏の話のトーンが変わったのが、スープ作りに話題が移ったとき。一般に、家系ラーメンのスープは一から作るのではなく、継ぎ足し、継ぎ足しで炊いていくのが基本。この〝継ぎ足し〞方次第で、スープの出来が違ってくる。 「前日のスープの残量に関係なく、うちのがらの注文量は同じ。材料をケチッてもうけようとは思いません。お客さんに対して正直なラーメンを出しています」 代田氏は「家系ラーメンのスープは、材料ありきだ」と言う。どれだけの量のがらを投入したかが、スープの出来栄えに直結する。そして、投入したがらは、頃合いを見計らって取り出す。このタイミングと取り出す量が、家系ラーメン職人の〝技術〞だ。「がらを抜き過ぎると軽くなるし、いつまでも炊いているとスープがドロドロになり過ぎます」とその加減次第で同じ家系ラーメンでも違いが出る。 魚介や野菜を使用せず、豚と鶏の動物性タンパク質だけでだしをとるスープには、独特のクセがある。「ひと口食べただけで全部残す人もいますから、ダメな人はダメですね。〝食べやすく〞はないし、〝食べやすい〞というのはほめ言葉でもない。でも、このクセのあるラーメンをおいしいと感じてくれるお客さんは、週に何回も来てくれるようになりますね」と一度ハマッたら、やみつきになるのが家系ラーメンの真骨頂だ。 代田氏が作るラーメンには、それがある。決して「運と成り行きと人の支え」だけで、ここまできたわけではない。家系ラーメンにかける情熱と信念こそが、ラーメン激戦区で戦い抜く最大の強みといえるだろう。 ラーメン激戦区への出店は偶然 出店はトントン拍子で進む 「とらきち家」の店名にちなんだ“トラ柄”の看板がユニーク  「とらきち家」は2014年1月開業。東急東横線・東白楽駅から徒歩約5分、JR京浜東北線・東神奈川駅から徒歩約15分。立地は横浜でも有名なラーメン激戦区の六角橋界隈。2軒隣に家系ラーメン店の「六角家」、約2㎞先には「末廣家」、そのほか「くり山」などが出店している。 「たまたま通りかかったら『テナント募集』の貼り紙があって、借りることになったんです。2軒隣が『六角家』さんだから、オープン当時はケンカを売っているように言われたけど、そんな気はまったくない。『六角家』さんとは、結構仲がいいんですよ」と周りが思うほどライバル店を意識してはいない。 出店費用の約2000万円は全額借金。前がドラッグストアだったので、設備を一から施工する必要があり費用がかさんだ。店をオープンしたものの、客の入りがさっぱりで、半年間は「死にそうだった」と言う。水道光熱費を滞納し、材料の仕入れ先にも支払いができない状態が続いた。その苦境を脱することができたのが「うまいものを作るためには、材料費を惜しまない」という信念だった。 坪数17.5坪。席数15席。1日平均来客数130〜150人。平均客単価700円。 がらを足しては抜くを繰り返す手間をかけるからこそうまい 「とらきちライス」。ライスを注文して、手作りの「刻 みショウガ」と「ライス用ニンニク」をトッピングし、 マヨネーズをかけて完成。半ライス70 円、並・大 盛り110 円で食べられるのは、かなりお得だ  スープは、直径58㎝ の寸胴でゲンコツをはじめとする豚がら180g、鶏がら60gを強火で2〜3時間炊いたものが基本。がらは生のものを使用する。家系ラーメンのスープは、毎日一から作るのではなく、前日の残りにがらを加えて炊き、時間がたったがらは炊き過ぎる前に取り出す。新しいがらを加えては、古くなったがらを取り出すという作業を繰り返してスープを作る。 その間、鍋底にがらを焦げ付かせないためと、半分砕いてがらのうま味を出すために、手間をかけて混ぜることが欠かせない。スープを混ぜるために代田氏が使用しているのが、特注のチタン棒。「鉄製だと熱くなるし、重いんです。木製だとがらに負けて折れちゃうし…」との経験からチタン製を思いついた。 自家製薫製の豚もも肉を醤油に漬けてチャーシューを作り、漬け込んだ醤油がたれになる。「たれに塩を加えると〝塩辛く〞なる。ラーメンは塩辛いではなくて、醤油味の〝しょっぱさ〞じゃないとダメですね」 自分好みにカスタマイズできるのが家系ならでは  カウンターの上には、手作りの刻みショウガ、おろしショウガ、ライス用ニンニク、おろしニンニク、マヨネーズ、コショウ、粗びき唐辛子などが並び、客が自分好みに味をカスタマイズできる。刻みショウガはゆでたショウガを調味料と乳酸菌に漬けたもの。ライス用ニンニクはゆでたニンニクを醤油に漬けて刻んだもの。すべて手作りで、無料だ。 「トッピングでもうけようとは思いませんから。自分好みのトッピングにしてもらい、何度来ても食べ飽きないラーメンがいいと思っています」と根強いファンを増やしている。 「とらきち家」の愛用食材 GSラーメンコショー 販売元=ジーエスフード (大阪府東大阪市) 規格=(缶)90g、400g ニンニク風味が絶妙 厳選されたブラックペパー、ホワイトペパー、ガーリック、オニオンを絶妙にブレンドしたラーメン専用のブレンドコショー。「ニンニクと玉ネギの風味がブレンドされたコショウなので、風味豊かなスパイシー感があり、ラーメンが一層おいしくなりますね」と代田氏。 OHotグリーン300 販売元=富士食品工業 (神奈川県横浜市) 規格=300g ラーメンの味を崩さない 生の唐辛子の風味を生かした製法で、乾燥唐辛子にはない香りとうま味を備えた辛さが特徴。「味にアクセントを付けながら1 杯を楽しんでいただきたいと思っていますが、これは辛さはあるのですが、ラーメンの味自体を崩すことがないのが気に入っています」 代田 将悟(しろた・しょうご) 16歳から始めたラーメン修業 1988 年横浜市戸塚区生まれ。高1の5月に高校を中退し、仕事探しを始める。「もともと包丁を握るのが好きだったから、本当は調理師学校に行きたかったんです。でも、ちゃんとした調理師学校は高校を卒業していないと入学できなくて……。それで、家の近所にラーメン屋が多かったので」という理由で、家系ラーメンの有名店に就職。16 歳からラーメン修業を始め、店の寮で生活する。繁盛店だったので、1日ほぼ12時間労働。16歳の少年にはつらいはず。さらに先輩後輩の関係が厳しく、辞めていくスタッフが多かった。そんな状況の中、代田氏は9年間、修業を積み、2013年8月退職。修業時代からかわいがってもらっていた清水裕正氏が経営する「王道家」に移る。清水氏のサポートを得て、14年1月24日、横浜市神奈川区のラーメン激戦区の六角橋界隈(かいわい)に「とらきち家」をオープン。開業後、わずか1年で、TRY ラーメン大賞2014-2015年「TRY 新人賞とんこつ部門」で受賞する。あたらしい視点でラーメンを伝える情報誌!